■対訳「ターザンシリーズ」名場面・決め台詞
■第７巻「野獣王ターザン」より
【ベルタ・キルヒャーBertha Kircherが狂人の都ズージャンXujaに捕らえられ、王妃ザニアXanilaと会見するシーン。原文（バランタイン版）と翻訳（ハヤカワ版）が著しく違うのでご紹介。底本が異なるのでしょうか？】
『「でも、かれらはあなたを殺さなかったでしょ？あなたは四十年間ずっと捕虜だったのでしょ？」とキルヒャーはいった。
老女は悲しげに首を振った。「たしかに殺さなかったわ。あなたも殺されないでしょうよ。でも、きっとあなたはいつか、殺してくれとかれらに頼むだろうと思うわ」
キルヒャーはこの老女が四十年前にここへ連れてこられたときの姿を想像してみた。わが身につまされて、心がいたんだ。「いったいかれらはどういう人種なのかしら。いや、それよりも、あなたがどうしてここへ連れてこられたのか、その話を聞かしてください」と頼んだ。
老女は遠い昔を見つめるようなまなざしで語りはじめた −
「わたしがちょうど二十歳になったばかりのときでしたわ。わたしの父はアメリカのある貿易会社の社員で、奥地のある居留地に家族連れで出張していたのよ。本国から赴任して半年ほどたったころだったと思うけど、ある日父と母が東海岸へ出かけた留守にアラブの盗賊団がその居留地を襲ってきて、ほとんどの白人を虐殺し、金品を略奪したあげく、あたしと道案内役の原住民を二、三人さらって逃亡したわけなの。』
（「野獣王ターザン」ハヤカワ版Ｐ．２８５。高橋豊訳）
『「でも、かれらはあなたを殺さなかった」娘は彼女に思い出させた。「あなたは、あなたのおっしゃる六十年の間、かれらの捕虜だったのですわ。」
「いいえ」彼女は答えた。「たしかにかれらはわたくしを殺しませんでした。そしてあなたのことも殺しはしないでしょう。でも、この恐ろしい場所でいくらも暮らさないうちに、あなたはかれらに自分を殺してほしいと願うようになりますわ。」
「いったいかれらは何者なの？」ベルタ・キルヒャーはたずねた。「どういう人たちですの？かれらはわたくしが今まで見たことのあるどんなものとも違いますわ。それに、そう、あなたがどうしてここにやってきたかもお話しになって。」
「ずっと前のことよ」寝椅子の上で体を揺らしながら老女はいった。「ずっと前のこと。おお、なんて昔なの！わたくしはたった二十歳でしたわ。考えてご覧なさい、あなた。そしてわたくしを見て。わたくしは鏡を持っていません − お風呂の水に映すだけ。もう目も衰えてしまって自分がどう見えるかも知ることが出来ません。でも、指で、老いたしわだらけの顔や落ちくぼんだ目、そして歯のない歯茎にかぶさった弛んだ唇を探ることは出来ます。わたくしは老いて、ねじ曲がって、醜いのですわ。でもわたくしが若かったとき、人はわたくしのことを美しいといいました。いいえ、率直にいってわたくしは美しかったのです。わたくしの鏡がそういってくれましたもの。
「わたくしの父は奥地へ派遣されていたのですが、そこにある日、アラブの奴隷狩りの一団がやってきました。かれらは父が働いていた原住民の小さな村から何人かの男女をさらいました。そのときわたくしもさらわれたのです。』
（「野獣王ターザン」小林私訳）
"But they haven't slain you," the
girl reminded her, "and you have been
their prisoner, you say, for sixty years."
"No," replied her companion, "they
have not killed me, nor will they kill you,
though God knows before you have lived long
in this horrible place you will beg them
to kill you."
"Who are they -" asked Bertha Kircher,
"what kind of people? They differ from
any that I ever have seen. And tell me, too,
how you came here."
"lt was long ago," said the old
women, rocking back and forth on the couch.
"It was long ago. Oh! how long it was!
I was only twenty then. Think of it, child!
Look at me. I have no mirror other than my
bath, I cannot see what I look like for my
eyes are old, but with my fingers I can feel
my old and wrinkled face, my sunken eyes,
and these flabby lips drawn in over toothless
gums. I am old and bent and hideous, but
then I was young and they said that I was
beautiful. No, I will not be a hypocrite;
I was beautiful. My glass told me that.
"My father was a missionary in the interior
and one day there came a band of Arabian
slave raiders. They took the men and women
of the little native village where my father
labored, and they took me, too.