対訳「ペルシダーシリーズ」名文句・決め台詞

第１巻「地底世界ペルシダー／地底の世界ペルシダー」より

【ディヴィッド最初の失策。狡猾な男フージャから救ったのになぜダイアンは怒ったのか】

『ところで女は、最初目をぱっちりと見開いてふしぎそうに私を見たが、やがてうなだれて、顔を半ばそむけた。ほんのりとした赤みが頬にみなぎっていた。ちょっとの間、彼女は黙ってそのまま突っ立っていたが、やがて昂然と頭を上げて、フージャに対してしたように私にくるりと背を向けた。捕虜たちの何人かは声を立てて笑った。毛深い男ガークが私を探るような目で見て、ひどく険しい顔つきになった。ダイアンの頬から、さっと血の気が引くのがわかった。」』
（「地底世界ペルシダー」ハヤカワＰＢ版Ｐ．５２。佐藤高子訳）

『そして娘は？　最初、彼女は目を大きく見開いて不思議そうな表情でわたしを見たが、やがて半ば顔をそむけるようにしてうなだれた。その頬はほんのりと朱に染まった。彼女は黙って立っていたが、やがてつんと顔を上げると、フージャに対してしたように、わたしにもくるりと背を向けてしまった。捕虜たちのあいだから失笑がもれた。そして毛深い男ガークはわたしを探るような目つきで見つめたが、その顔はいかにも凄みをおびていた。わたしがダイアンに目を移すと、彼女の頬からさっと血の気がひき蒼白となった。』
（「地底の世界ペルシダー」創元版Ｐ．６３。厚木淳訳）

And the girl? At first she looked at me with wide, wondering eyes, and then she dropped her head, her face half averted, and a delicate flush suffused her cheek. For a moment she stood thus in silence, and then her head went high, and she turned her back upon me as she had upon Hooja.
Some of the prisoners laughed, and I saw the face of Ghak the Hairy One go very black as he looked at me searchingly.
And what I could see of Dian's cheek went suddenly from red to white.

【襲いかかるシプダールから救ったのち、ついにダイアンに愛を告白するディヴィッド】

『「でも、ぼくがついているよ、ダイアン」私はさけんだ。
「ジュバルにも、他の誰にもきみを渡しはしない。きみはぼくのものだ」そういって私は彼女の手をとった。だが解放してやるしるしとして、その手を彼女の頭上に上げてそこから落とすことはしなかった。
　彼女はすでに立ち上がっていた。そして真直ぐ喰い入るように私の目をみつめていた。
「信じられないわ。だってもしもあなたがその気なら、他の人たちの面前でこうしたはずです　−　そうしたらあたしはまぎれもなくあなたの妻になっていたでしょうに。今あなたがこうしているところを見ているものはありません。立ち会い人がいない場合は、こんなことをしても二人は結ばれないのだということをあなたはご存じなのですわ」そういうと彼女は手を引っこめてそっぽを向いた。
　私に誠意があるのだということを納得させようとしたが、彼女はあの時に私が与えた屈辱感を忘れることができないのだった。
「もしもあなたのおっしゃることがすべてほんとうなら、証明するチャンスは充分ありますわ。ジュバルがあなたをつかまえて殺さなければね。あたしはあなたの思いのままなんですから。あなたがあたしをどのように扱って下さるかということであなたのお気持ちが何よりもはっきりと証明されることになりますわね。あたしはあなたの妻ではありませんし、もう一度いっておきますが、あなたが嫌いです。再会していなかったらよかったのですわ」』
（「地底世界ペルシダー」ハヤカワＰＢ版Ｐ．１４６〜１４７。佐藤高子訳）

『「しかし、もうぼくがついているよ、ダイアン」わたしは叫んだ。「ジュバルであろうと、ほかのだれであろうと、きみを渡すものか。きみはぼくのものなんだ」そういって、わたしは彼女の手をとった。だが、解放のしるしとして、その手を彼女の頭上にもちあげて、そこから落とすことはしなかった。
　彼女はすでに立ち上がっていたが、真直ぐに平静な目でわたしの目を見つめていた。
「わたくしはあなたを信じません。いくらおっしゃっても、もしあなたが本当にその気だったなら、ほかの人たちの面前でそうなさったはずです　−　そうすれば、わたくしはれっきとしたあなたの妻になっていたでしょう。いまあなたがこうしているところを見ているものはありません。証人がいなければ、あなたの行為があなたを拘束しないことはご存じのはずよ」彼女はわたしの手をふりほどくと、顔をそむけた。
　わたしは自分が本気であることを納得させようとしたが、わたしが、かつて与えた侮辱を忘れることができなかったのだ。
「もしあなたの口になさることが、すべて本心でしたら、それを証明するチャンスは充分にあります。もっともジュバルがあなたを捕らえて殺さなければの話ですけど。いまのわたくしはあなたの支配下にありますから、あなたがわたくしをどのように遇してくださるかということで、あなたの意向が一番よく証明されるはずです。わたくしはあなたの妻ではありませんし、それに重ねて申し上げますけど、わたくしはあなたが大嫌い。二度とあなたの顔なんか見なければよかったのに」』
（「地底の世界ペルシダー」創元版Ｐ．１８７〜１８８。厚木淳訳）

"But I have you now Dian," I cried; "nor shall Jubal, nor any other have you, for you are mine," and I seized her hand, nor did I lift it above her head and let it fall in token of release.
She had risen to her feet, and was looking straight into my eyes with level gaze.
"I do not believe you," she said, "for if you meant it you would have done this when the others were present to witness it - then I should truly have been your mate; now there is no one to see you do it, for you know that without witnesses your act does not bind you to me," and she withdrew her hand from mine and turned away.
I tried to convince her that I was sincere, but she simply couldn't forget the humiliation that I had put upon her on that other occasion.
"If you mean all that you say you will have ample chance to prove it," she said, "if Jubal does not catch and kill you.
I am in your power, and the treatment you accord me will be the best proof of your intentions toward me.
I am not your mate, and again I tell you that I hate you, and that I should be glad if I never saw you again."

【ダイアンのつれなさに激高したディヴィッド、ついに直接行動に出る！】

『私は突如として野獣に変身したらしい。十億年を逆行して女を力ずくでわがものにする正真正銘の穴居人に逆戻りしたのだ　−　そして美しい口もとになんどもなんども口づけした。
「ダイアン」わたしは荒々しく彼女をゆさぶりながら叫んだ。「きみを愛しているんだ。きみにはわからないのか？　この世界の、そしてぼくの世界の何ものにも増してきみを愛しているのだ。きみはぼくのものになるんだ。ぼくのような男の愛は拒絶することができないのだ！」
　ふと、彼女が私の腕の中でひどくおとなしくしているのに気がついた。目が光に馴れてくるにつれて、彼女が微笑しているのがわかった　−　満足しきった、幸せそうな微笑だった。私はすっかり面喰った。やがて彼女がそっと自分の腕をほどこうとしているのに気がついて私は握っていた手をゆるめた。彼女はゆっくり腕を上げて私の首筋にまきつけ、それから再び私の唇を自分の唇に引き寄せて長い間押しつけていた。やがて彼女はいった。
「どうして最初にこうして下さらなかったの、ディヴィッド？　ずいぶん長い間待っていましたのよ」』
（「地底世界ペルシダー」ハヤカワＰＢ版Ｐ．１５７〜１５８。佐藤高子訳）

『わたしは忽然と野獣に変身したらしい。十億年の昔に立ち帰り、力まかせに女をわがものにする本物の穴居人に逆行したのだ　−　そして、そのいとも美しい口もとに接吻の雨を注いだのである。
「ダイアン」わたしは荒々しく彼女をゆすぶった。「きみを愛している。それがわからないのか？　この世界の、いやぼくが生まれた世界も含めて、なににも増してきみを愛していることが？　きみがぼくのものになるということが。ぼくが抱いているような愛は拒むことができないのだ！」
　すると、わたしは彼女がわたしの両腕の中で、じっとしていることに気づいた。目がその薄暗い光に慣れるにつれて、彼女が微笑しているのがわかった　−　とても満足した、幸せな微笑である。わたしはすっかり動転した。それから彼女はやさしく自分の両腕をほどこうとした。それに気づいたわたしは握りしめていた手の力をゆるめてやった。彼女はゆっくりと両腕を上げると、わたしの首筋にまきつけた。そして、わたしのくちびるを自分のくちびるに引き寄せて長いあいだそのままにしていた。やがて彼女は口をひらいた。「どうして、あなたは最初にこうしてくださらなかったの、ディヴィッド？　とても長いあいだ待っていましたのに」』
（「地底の世界ペルシダー」創元版Ｐ．２０２〜２０４。厚木淳訳）

I imagine that I had suddenly turned brute, that I have gone back a thousand million years, and was again a veritable cave man taking my mate by force - and then I kissed that beautiful mouth again and again.
"Dian," I cried, shaking her roughly, "I love you. Can't you understand that I love you? That I love you better than all else in this world or my own? That I am going to have you? That love like mine cannot be denied?"
I noticed that she lay very still in my arms now, and as my eyes became accustomed to the light I saw that she was smiling - a very contented, happy smile.
I was thunderstruck. Then I realized that, very gently, she was trying to disengage her arms, and I loosened my grip upon them so that she could do so. Slowly they came up and stole about my neck, and then she drew my lips down to hers once more and held them for a long time.
At last she spoke.
"Why didn't you do this at first, David? I have been waiting so long."

• 最初の、フージャを倒したのにディヴィッドがなにもしなかったのでダイアンがひどく傷つく場面。ダイアンの感情の動きを追うのがなかなか難しいシーンです。でもガークの描写はハヤカワ版の佐藤氏の訳の方が良く理解できる気がします。"go very black"ですから状態の変化を言うべき場面だと思います。
• 二番目のシーン。『「立会人がいなければ無効である」ことを知っているから、あの時でなく、今、意思表示をするのだろう』という論理の組み立てだろうと思うのですが、このあたりも佐藤さんの訳の方が明確かも。
• 厚木さんの訳は「わたくし」、佐藤さんの訳は「あたし＋〜ですわ口調」。それぞれ味わいに微妙な違いがあって面白いところです。男性が「ですわ」とか「なのよ」などと書くのはちょっと抵抗がある（というか、照れる）のかなあ、などとも思います。
• やはり二番目のシーンですが『あのときあなたがこうしていたらわたしは妻になっていたでしょう』というダイアンの台詞。一方で『大嫌い』と言いながら、しっかり本心が出ちゃっている部分ですね。嫌な奴なら逃げ出すはずですから。

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