対訳「火星シリーズ」名文句・決め台詞

第６巻「火星の交換頭脳」より

【冒険のすえ、ついにヴァラ・ディアの脳は彼女本来のからだに戻った。その満願成就のシーン】

『「終わりましたの？」彼女はそう叫ぶと、両手で軽く自分の顔を打ち、自分の顔立ちのすべてと、滑らかな首の柔らかい繊細な輪郭に触れてみた。しかしまだ本気にはなれず、鏡を求めた。わたしはザザの小袋からそれをとり出して手渡した。長いこと彼女は見入っていたが、その頬に涙が流れ始めた。それから涙の霞をとおしてわたしを見あげ、愛らしい腕をわたしの首のまわりにかけると下にひき寄せた。
「わたくしの族長さま（マイ・チーフテン）」彼女はささやいた　−　それだけだった。しかしそれで充分だったのだ。』（「火星の交換頭脳」創元版Ｐ．２２６。小西宏訳。（）内はルビ）

"It is done?" she cried, and clapped her hands to her face and felt of all her features and of the soft, delicate contours of her smooth neck; and yet she could scarce believe it and asked for a glass and I took one from Xaxa's pocket pouch and handed it to her. She looked long into it and the tears commenced to roll down her cheeks, and then she looked up at me through the mist of them and put her dear arms about my neck and drew my face down to hers.
"My chieftain," she whispered - that was all. But it was enough.

【ファンダル上空でのジョン・カーターとの会合】

『「その点については問題はありませんよ、ジョン・カーター」わたしは英語でいった。
彼は目を大きく見開いて、わたしのほうに視線を移した。染料が薄れてしまったため、薄くなったわたしの皮膚に気づくや、彼は前に進み出て片手をさしのべた。
「同国人かね？」彼はきいた。
「ええ、アメリカ人です」
「まったく、びっくり仰天するところだった。だが驚くにはあたるまい。わたしは渡ってきた　−　ほかの者がそうしていけない理由はなにもないのだ。そしてきみはそれを、やってのけた！ぜひ、いっしょにヘリウムへ来て、その間のいきさつをすっかり話してもらおう」』（「火星の交換頭脳」創元版Ｐ．２４８。小西宏訳）

『「その点については問題はありませんよ、ジョン・カーター」わたしは英語でいった。
彼は目を大きく見ひらいて、わたしのほうに視線を移した。染料が薄れてしまったため、薄くなったわたしの皮膚の色に気づくや、彼は前に進み出て片手をさしのべた。
「同国人かね？」彼はきいた。
「ええ、アメリカ人です」
「まったく、驚いて腰を抜かすところだったよ。だが驚くにはあたるまい。わたしは宇宙空間を渡ってきた　−　ほかの者だって、そうしない理由なんかないからね。そしてきみはそれをやってのけた！ぜひいっしょにヘリウムへ来て、その間のいきさつをすっかり話してもらおう」』（「火星の交換頭脳」創元合本版Ｐ．７５２。厚木淳訳）

"There is no question about it, John Carter," I spoke up in English.
His eyes went wide, and when they fell upon me and he noted my lighter skin, from which the dye was wearing away, he stepped forward and held out hid hand.
"A countryman?" he asked.
"Yes, an American," I replied.
"I was almost surprised," he said. "Yet why should I be, I have crossed - there is no reason why others should not. And you have accomplished it! You must come to Helium with me and tell me all about it."

【末尾の一節。新婚旅行中のユリシーズ・パクストンの結びの言葉】

『いまとなっても、窓から外を見ると、ヘリウムの双子都市の深紅と黄の塔が見えることが、わたしには夢のように思えてならない。わたしはカーソリスやプタースのスビア、ヘリウムのターラ、ガソールのガハン、それにあの比類なき火星のプリンセス、デジャー・ソリスに会ったし、日ごと見てもいるのだ。しかしわたしにとってはもうひとり、彼女のように美しい、いや、もっと美しくさえ思える人がいる　−　デュホールの王女ヴァラ・ディア　−　ユリシーズ・パクストン夫人である。』（「火星の交換頭脳」創元版Ｐ．２５０。小西宏訳）

Even now it seems like a dream that I can look out of my window and see the scarlet and the yellow towers of the twin cities of Helium; that I have met, and see daily, Carthoris, Thuvia of Ptarth, Tara of Helium, Gahan of Gathol and that peerless creature, Dejah Thoris, Princess of Mars. Though to me, beautiful as she is, there another even more beautiful - Valla Dia, Princess of Duhor, - Mrs. Ulysses Paxton.

• 第６巻ではあまりラブシーンは無いですね。なんたってヒロインが物語の大半を醜悪な女帝の肉体に入って過ごしているわけで。
• 第６巻は小西訳と厚木訳の差が非常に少ない巻で、ページ数から行数まで一致しています。ジョン・カーターとのシーンはその数少ない相違点です。
• その厚木訳を合本版のものに変えてみました(1999.10.23)。ジョン・カーターの口ぶりがだいぶくだけた感じになっています。

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